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『父親』

私は父親が怖かった。
今でこそすっかり好々爺だが、子どもの頃の私は、父親が怖くて怖くて仕方がなかった。

私の父親は船乗りで、世界各国から鉄鉱石や石油をタンカーで積んでくる仕事をしていた。
1回の航海に半年くらいかかるので、物心ついた時から父親は盆と正月に3日間だけ家にいる存在であった。
専業主婦の母子家庭という今思えば何とも不思議な状況で、やんちゃ盛りの私は母親を何度も困らせた。
そのたびに母親は『お父さんに言うからね』『今すぐ言うね』と国際電話を掛けるふりをして、私は泣きながら『それだけはやめて』と黒電話のコードを引きちぎったりしていた。
半年に一度、家に帰ってきた父親は、ずっと日本酒を呑み続け、半年分まとめて私を怒り、拳骨を食らわせた。
その度に私は大泣きし、父親を睨みつけては怒られて大泣きし、自分の部屋のドアをわざと乱暴に閉めては拳骨を食らって大泣きした。

怒られて泣かされ続けた父親がまた次の航海に行く日、
駅のホームに、また泣きじゃくる私がいた。
『お仕事なんかに行かなければいい』『ずっといればいい』と。

怖くて怖くて仕方がなかった父親。

そんな父親に私はなりたい。

プロフィール

村田 康二(むらた こうじ)

はらぺこペンギン!劇団員
物語のストーリー進行を担うことが多い、
ペンギンで一番眼鏡とスーツが似合う男。

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